
間もなく平成が終わります。「失われた三十年」と言われ、平成が始まった頃は誰もが明るい明日を信じて疑わなかった日本はいまや見る影もありません。
一方、個人レベルでは、多くの人が将来についてお金を中心としたばく然とした不安を抱いています。
とはいえ、毎日の仕事や家事、やるべきことが多くて、棚上げにしたり考えないようにしたりしてしまっている人が多いようです。
この先、日本は大きな困難に直面するでしょう。残念ながら、それは疑う余地がありません。
そして、事態が深刻さを増すほど対処はむずかしくなります。
今こそできることから始める時期です。対処法の重要ポイントと入り口についてまとめました。
目 次
1. 多くの人が不安を抱いている現状
アクサ生命が2017年に実施した調査によると、全体の実に8割近くが将来について「不安に感じている」「やや不安に感じている」と回答しています。
年代別では、最も不安を感じているのが40代、次いで30代、50代となっていますが、20代でも7割強が同様に不安を感じており、幅広い世代に不安が広がっていることが見て取れます。
不安に感じていることの内容をみると、「超高齢化社会に伴う社会保障サービスの低下」「公的年金の引き下げ」がともに6割、「消費税や他の税金負担の増加」が5割、「大規模自然災害の発生」が5割弱と続きます(複数回答)。
このように、不安に感じることのほとんどは「お金絡み」であることがわかります。
これに対して将来の不安解消に十分な取り組みができていると答えた人の割合は、わずか4%に過ぎません。取り組んでいるが不十分(44%)な人が続き、まったく取り組んでいない人は50%を上回ります。
その背景には、人口減少と高齢化があることが明らかです。我が国の総人口は、2004年をピークに、今後100年で100年前(明治時代後半)の水準に戻っていきます。この変化は千年単位でみても類を見ない、極めて急激な減少ということです。
また、高齢化率は2004年の20%から、2030年には32%、2040年には40%と急激に上昇します。
(人口動態に関する出典:「国土の長期展望」中間とりまとめ 概要(平成23年2月21日国土審議会政策部会長期展望委員会) <URL>http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/kokudo03_sg_000030.html)
このような人口動態の傾向は数十年先までほぼ決まってしまうため、推計ではあってもまず間違いない未来を示すと言えます。
加えて、活動期に入ったと言われる大地震の脅威、酷暑や大型台風、大雨など異常気象の頻発といった、何が起きるかわからない昨今の状況です。
このような状況を考えると、むしろ将来が不安で当たり前の時代と言えるのかもしれません。
2.お金の不安に向き合わないことの問題点
でも、ちょっと待ってください。不安で当たり前だからとそのまま何もしないでいるのは、大きなリスクを伴うと言えます。
つまり、将来をさらに暗いものにしてしまう可能性が高まるということです。
以下でその理由を見ていきましょう。
(1) お金ではない問題に気づけない
お金の問題に向き合わないことは、なんでもお金のせいにできるということでもあります。
本当はやりたいことがあっても、「お金がないから(〜できない)」「どうしようもない」と自分を納得させることで、思考停止してしまって他の方法を模索してでも実現しようというところへいけません。
このような場合、自分がやりたいことをして生きることに許可を出していない(両親の束縛が強い場合など)、チャレンジして失敗することをあまりにも恐れている、など別の問題が潜んでいることがよくあります。
他にも、自分をよくしていこうという向上心に欠けている、人生設計のもと主体的に生きていくことから逃げている、といったケースもあるでしょう。
夫婦や親子など人間関係の問題がお金の裏側に潜んでいることもよく見受けます。無意識にお金を遠ざけることで依存する関係を保ったり、お金で相手を支配したり。
このようなことが起きるのは、お金のさまざまなものを投影する性質によります。
お金とは何かという問いに対して、ポジティブなものからネガティブなものまで、人によって答えは千差万別です。
ある人は、お金をお客さまからいただく愛と答え、ある人は人を狂わせる悪魔と答えるといったように。
だから、何でもお金のせいにできるし、ということはお金の問題に自分が見たくないことが隠れている可能性があるということを知っておくとよいでしょう。
(2) 無力感に陥りやすい
上で述べたような社会や環境の変化は、いくら望まないものであっても、多くは個人の力ではどうにもならないものです。
そのような外部の要因によって自分の気持ちや感情が決定されることを許してしまうと、人は無力感に陥りがちです。
本来人はどのような状況であっても、自分の心の状態を自分で決める力を持っていますが、自分でそうではないと認めることで持っている力を発揮する可能性を失ってしまうのです。
自分の人生を自分ではどうすることもできないと感じていたら、自分を価値ある存在とは到底思えないでしょう。
主体性を持って考えたり行動したりすることができず、受け身で、被害者、犠牲者的になり、それにふさわしいあり方、考え方を育んでしまうことになりがちです。
自分を否定する思いが強まりやすいですし、自分のことが好きになれないかもしれません。
(3) 流されるままに生きてしまう
無力感に苛まれると、自分が望む人生を生きるために努力しようとはなかなか思えなくなります。
外の環境に左右されて自分というものがないとしたら、当てもなく漂っているようなものですし、いざ環境の変化が起きた時には、なすすべもなく翻弄されてしまいます。
現在の外部環境は決して好ましいものではないので、人生全体が外部環境そのままに暗いものになりかねません。
希望を持てず、漠然とした不安につきまとわれてしまっては、人生がグレートーンに塗りつぶされてしまうでしょう。
そうなると、不安から逃れるために、刹那的な楽しみを求めてしまいがちになります。意識していないと余計にそうです。
感覚や心の刺激を求めても、一時的な満足や幸福感しか得られないので、そこにエネルギーやお金をつぎ込んでしまい、根本的な解決が遠ざかります。
感覚には慣れが伴い、より強い刺激を求めるようになっていくので、中毒的な悪癖に染まることにも注意が必要となるでしょう。
3. お金の不安への対処法
このようにお金の不安は、お金以外の問題に根っこがあることが多いほか、人生全般に対する向き合い方などとも密接に関連しています。
ですから、お金の問題だからと、やみくもに投資の講座に通ってみたり、FP(ファイナンシャルプランナー)にお仕着せの資金計画を立ててもらったりしても、遠回りになる可能性が小さくありません。
むしろ、まず行うべきは、お金のことで将来に不安を感じている自分としっかり向き合うことです。以下で順を追って見ていきます。
(1) 感じていることを明らかにする
お金の不安の根本にお金以外の問題が潜んでいることが多いのは先に述べたとおりです。それには過去の出来事による心の傷やつらい思い出なども含まれます。
たとえば、生まれ育った家庭が裕福でなく、小さい頃、何かをねだったら親に叱られたこと。後で、実は親も自分の不甲斐なさでやり切れない気持ちだったと知って悲しかったことなど、様々な思いが入り組んでいます。
お金にまつわるイメージには成長過程で経験した数々の記憶が澱のように沈んでいて、そのような記憶は思い出すとつらいので抑圧されてしまいます。
そこで、お金に関する不安な気持ちを受け入れることがまず第一にやるべきことです。
受け入れるというのは、積極的に肯定する必要まではなく、あるものはあると認めるというニュアンスです。
恐れや不安も生きていれば当然出てくる感情なので、否定しないことが大切です。
そして、問題と感じていることを列挙します。いったんテーブルの上に並べてみる感じです。
この段階では、解決については考えずに、正直に自分にさらすことを第一の目的とし、それができたら「よくやった」と自分にOKを出しましょう。
(2) 問題を切り分ける
テーブルに並べたお金に関する問題は、上に述べたようなさまざまな方向性やレベル感の問題が混在しているのが一般的です。
絡み合った問題は、どのように対処していいかわからなくなり、一つ一つの問題の単純合計より大きく深刻に思えるものです。
まずは、次の2つに大きくわけてみましょう。
感情や思いなど心の問題と、知識やスキルに関する問題です。
後者は金融商品や税務の知識、資金計画などが該当します。
こちらの対処は比較的単純で、ネットで調べたり、本を読んだり、場合によっては専門家の助けを借りるとよいでしょう。
一方で、心の問題の方は奥が深く簡単ではありません。スキル分野に思える株式投資なども、感情をうまく扱えないと成功し続けるのは難しいと言われており、結局心の方に帰結するとも考えられます。
(3) お金以外の解決法を探る
次に、心の分野であるにせよそうでないにせよ、お金以外の解決法を探るのは有効です。
お金がないからできないと思って立ち止まって悩んでいたことが、お金がかからない方法を見つけてとりあえず一歩を踏み出すことで動きが出る、なんてことはよくあります。
どうしてもお金を必要とする問題だったとしても、背後にあるお金以外の問題をクリアにしておくことで、純然たるお金の問題はずっとシンプルに対処しやすくなるものです。
「お金の問題じゃないとしたら」と仮定してみるのもよいかもしれません。
人に頼むのが嫌でお金で解決しようとしていたり、お金がないことにして行動しないで済むようにしていたり。
面白いのは、お金以外の解決方法はたいてい人とのつながりがポイントになることです。
たとえば、宿泊するお金がないなら友達の家に泊めてもらう、交通費がないならヒッチハイクで誰かに乗せてもらう、専門家を雇うお金がないなら知り合いの伝手でプロを目指して修行中の人を見つけるなどなど。
予算内に収める商談や交渉にしても、相手との人間関係が良好であれば、あるいは、初対面でもいい関係性を築く能力が高ければ、うまくいく可能性はずっと高まるでしょう。
お金の不安を解決するために、コミュケーションなど人との関わり方を学ぶことは、関係ないように見えて実は非常に有効な方法です。
人とのつながりについては、次項でさらに述べてみます。
(4) 対処できるものとできないもの
問題を切り分けた際、どうしても対処できないものが出てきます。
たとえば、現在、日本の財政赤字がGDP(国内総生産)の2倍以上に膨らみ、国債の暴落、財政破綻が懸念されています。
海外への資産逃避など策がないわけではありませんが、実行できる人はほんの一握りでしょうし、日本に暮らす以上、大きな混乱の影響は避けがたいでしょう。
とはいえ、このような問題に関しても、豊かな人間関係は防波堤となり得ます。
助け合うことで困難を乗り越えることができるというのは、単なる精神論ではありません。
お金はもともと物々交換における価値交換を便利にするための道具として生まれたものです。
人と人との結びつきが緻密で交流がスムーズであれば、お金という道具がなくても多少の不便はあるものの価値交換は成立し、経済活動が成り立つというのは頷ける話です。
もともと人間は、他の動物に比べて肉体面での優位性に乏しく、知恵と助け合うことで地球上の生物で最も繁栄することができました。
ところが、過度のお金への傾斜や信奉が人と人との関わりを希薄にし、今日のように不安が蔓延する社会を招きました。
そのお金の不安に対処するための切り札が、人同士がつながりを取り戻すことであるのは、ある意味当たり前なのかもしれません。
4. まとめ
最後はやや話が大きくなったきらいはありますが、現代社会では「お金がないと生きていけない」とまで多くの人が固く信じているお金です。
煎じ詰めれば、人や社会のあり方といった根源のところまで行き着くのも、ある意味では当然なのかもしれません。
どこまでいくかは人によるとして、意識しないままお金の不安にジワジワと侵食されて、翻弄されたまま人生を送るよりも、しっかりと向き合って自分で人生を切り開いていくのが個人的には断然楽しそうだと思うのですが、みなさんはいかがですか?
<拙著もご参考になると思うので、よかったら読んでみてください>